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蛇紋岩地帯植物の調査研究
◆嵐山公園を含む神居古潭一帯には、蛇紋岩(じゃもんがん)が広範囲に分布しています。
植物の分布や種分化は、生育地土壌の化学的要因によって大きな影響を受けており、そのことが特に顕著に現れているのが蛇紋岩地です。
嵐山公園センターでは、季節の野草を見学に来られる皆さんはもちろんですが、より踏み込んだ内容を希望される皆さんにもお応えできるよう、また、自然と人間の共生のあり方を広く市民の皆さんにお伝えするために蛇紋岩地に生息する植物の調査研究を実施いたしました。
この調査研究事業は、「平成22・23年度 財団法人国際花と緑の博覧会記念協会(EXPO'90)」の研究助成金交付を受けて実施いたしました。(事業名:「旭川市蛇紋岩地帯の植物の調査研究」)
※調査研究は、2年間(平成22~23年度)で実施し、さく葉標本、小冊子、植物目録の作成、報告会などを開催いたしました。嵐山公園センターでご覧になることができますのでご利用ください。
調査研究期間中の様子は下記のとおりです。
調査研究のようす(2011年)
今年も昨年に引き続き、「蛇紋岩地帯植物」の調査研究を実施しております。調査研究の様子は、当協会職員(堀江園長)のコメントを交えてご紹介していきます。
◆堀江園長のコメント
■エゾカンゾウ
湿原、海岸、岩峰などに生育する植物が、特異的に蛇紋岩地にも分布します。これらの植物は、環境が厳しく比較的生存競争の少ない蛇紋岩地に適応し、残存するようになったと考えられます。(H23.7.7)
■イワウサギシダ
■クロバナハンショウヅル | ■ヒロハノヘビノボラズ |
◆堀江園長のコメント
■植生調査の様子
植物相調査と同時に蛇紋岩植物の生育地における植生も調べています。方形枠は1×1㎡で、各蛇紋岩植物で10ヶ所設置してデータ整理をしております。群落の種組成の特性も明らかになってきました。(H23.8.1)
■タカネタンポポ 方形枠
■エゾタカネニガナ 方形枠 | ■シラトリシャジン 方形枠 |
◆堀江園長のコメント
蛇紋岩土壌にのみ生育している植物を「蛇紋岩植物」と総称しています。
本事業で旭川市の蛇紋岩地から次の11分類群の蛇紋岩植物の分布を確認いたしました。(H23.8.23)
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■ウリュウトウヒレン | |
■シラトリオトギリ | ■アポイタチツボスミレ |
◆堀江園長のコメント:(H23.9.13)
■ホソバエゾノコギリソウ
■旭川市と縁深い蛇紋岩植物(その1)
ホソバエゾノコギリソウ(キク科)
この植物は、北村四郎博士(京都大学)により1940年に記載発表されました。
その際タイプ標本(基準標本)に指定したのは、著名な植物学者の宮部金吾博士(北海道大学植物園初代園長)が1891年に旭川市神居古潭で採集した植物標本でした。
これは函館本線が開通(1898年)し、神居古潭駅が設置(1901年)される前のことです。
また、偉大なフランス人のフォーリー神父も1904年に神居古潭でこの植物を採集し、標本も残されております。
◆堀江園長のコメント:(H23.10.13)
■オオタカネタンポポ
■旭川市と縁深い蛇紋岩植物(その2)
オオタカネタンポポ(キク科)
大雪山の父として名高い小泉秀雄氏(旧旭川中学教諭・現旭川東高校に在職、後に共立女子薬科専門学校講師)が1933年に夕張岳(蛇紋岩の山)の高山帯で採集した植物に「タカネタンポポ」と記載しました。
著名な植物学者の豊国秀夫博士(旭川大学教授に在職、後に信州大学教授)は、総苞が長く、胆振管内の低山帯の蛇紋岩地に生育する植物を変種の「オオタカネタンポポ」として1953年に発表しました。
この偉大な二人の植物学者も、まさか本種が旭川市に分布生育しているとは、考えていなかったことでしょう。
◆堀江園長のコメント:(H23.11.1)
■ウスゲノチシマフウロ
■旭川市と縁深い蛇紋岩植物(その3)
ウスゲノチシマフウロ(フウロソウ科)
チシマフウロは亜高山から高山帯に分布する、高山植物の一種である。稲垣貫一博士(元北海道教育大学旭川校教授)は、和寒町の蛇紋岩地の植物を調査、チシマフウロに比較して葉、茎などに毛が少ないことに気づかれ、1966年に品種の「ウスゲノチシ マフウロ」として記載発表した。旭川市の蛇紋岩地にも毛の少ないこのタイプが生育している。
稲垣貫一博士は道北地方の蛇紋岩地帯の植物のみならず、嵐山や旭山など旭川市の主な地域の植物も調査されており、突哨山(男山)の「ピップイチゲ」の命名者でもある。
◆植物の講演会『心を緑にする植物のお話』の開催について(H24.1.23)
■嵐山公園センターで2年間にわたり実施して参りました「旭川市蛇紋岩地帯の植物の調査研究(財団法人国際花と緑の博覧会記念協会研究助成金交付事業)」の成 果発表と植物写真家 梅沢 俊 氏を招いて植物の講演会『心を緑にする植物のお話』を開催いたします。たくさんの市民の皆様のご来場をお待ちしておりま す。
●と き 平成24年3月4日(日) 午後2時から午後4時30分(午後1時30分開場)
●ところ 旭川市大雪クリスタルホール(旭川市神楽3条7丁目)
●講 演
- 「旭川市蛇紋岩地帯に息づく花」
財団法人旭川市公園緑地協会 北邦野草園
園長(農学博士) 堀 江 健 二 - 「北海道からヒマラヤの高山へ。花の魅力を訪ねて」
植物写真家 梅 沢 俊 氏
●入場料 無料(事前申し込みは不要。直接会場にお越しください。)
●主催/財団法人旭川市公園緑地協会 共催/旭川市博物科学館
後援/旭川市
梅沢 俊 氏のプロフィール」
札幌市在住の植物写真家。1945年生まれ 北海道大学農学部卒業。
北海道の野生植物を中心に写真撮影を行い、国内はもとよりネパールやブータンのヒマラヤ、ヨーロッパ、中国でも活動。
また、研究面では、「リシリアザミ」、「マシケレイジンソウ」等の新種を発見し、専門家から高い評価を得ている。
大変多くの著書を出版しており、最近では多くの皆様が使用されている「北海道の高山植物(北海道新聞社)」、「新 北海道の花(北海道大学出版会)」があります。
2006年に「第14回 松下幸之助 花の万博記念 奨励賞」を受賞。
◆植物の講演会『心を緑にする植物のお話』の開催について(H24.3.15)
■植物の講演会『心を緑にする植物のお話』を平成24年3月4日に開催いたしました。
当日は、300人を超えるお客様にお集まりいただき、誠にありがとうございました
「旭川市蛇紋岩地帯に息づく花」 財団法人旭川市公園緑地協会 北邦野草園長 堀 江 健 二 |
「北海道からヒマラヤの高山へ。花の魅力を訪ねて」 植物写真家 梅 沢 俊 氏 |
この講演会をもちまして、2年間にわたり実施して参りました「旭川市蛇紋岩地帯の植物の調査研究」は終了いたしますが、蛇紋岩地帯植物は奥が深く、調査しきれていないところもあります。次年度以降も少しずつ活動を続けていきたいと思います。
なお、研究データは、4月に入りましたら北邦野草園において公開いたしますのでご覧ください。
最後に、2年間にわたり、事業のご支援をいただいた「財団法人国際花と緑の博覧会記念協会」に感謝を申し上げ、本事業の終了とさせていただきます。ありがとうございました。
調査研究のようす(2010年)
調査研究の様子は、当協会職員(堀江園長)のコメントを交えてご紹介していきます。
◆堀江園長のコメント
雪が解け、5月より神居古潭、江丹別地域の蛇紋岩地帯で本格的に調査を開始しました。蛇紋岩植物の「アポイタチツボスミレ」や亜高山性植物の「ショウジョウバカマ」をはじめ、「エゾノイワハタザオ」、「キジムシロ」、「アイヌタチツボスミレ」等が開花を始めました。データを取りながら調査を進めております。(H22.5.22)
■アポイタチツボスミレ
◆堀江園長のコメント
旭川市の蛇紋岩地は標高100~500mの低山地にあります。しかしここには、「ハイマツ」、「タカネナデシコ」、「チシマフウロ」、「マルバシモツケ」 をはじめ多くの高山植物が生育しております。これらの高山植物の分布には、蛇紋岩の特殊な土壌成分や過去の寒冷期(氷期)という地史的な気候条件が深く係 わっていると考えられます。」 (H22.6.26)
■タカネナデシコ
■マルバシモツケ | ■チシマフウロ |
◆堀江園長のコメント
■エゾタカネニガナ
蛇紋岩土壌は、植物に必要なカリウムやカルシウムの量が少ない貧栄養の土壌です。一方、過剰に摂取すると有害なニッケルやマグネシウムが多く含まれていま す。このため、一般の植物が生育するには、大変厳しい環境です。このような蛇紋岩土壌に生活の本拠地をもつ植物を蛇紋岩植物と呼んでおります。 (H22.7.23)
■蛇紋岩崩壊地
■クロテンシラトリオトギリ | ■ホソバコウゾリナ |
◆堀江園長のコメント
■自生地の調査
蛇紋岩植物のホソバエゾノコギリソウは、旭川市神居古潭で採集された植物を基に、1940年にこの名前が発表されました。このようにその植物の名前が付け られる時に基本になった場所を基準標本産地といい、学術上貴重な地域です。ホソバエゾノコギリソウは、個体数が少なく保護を要するために環境省の絶滅危惧 植物にも指定されております。(H22.8.22)
■ホソバエゾノコギリソウ | ■ホソバエゾノコギリソウ(アップ) |
◆堀江園長のコメント
■シラトリシャジン
ユウバリソウは夕張岳の蛇紋岩地にだけ分布生育しております。このように特定の狭い地域にだけ分布する植物を固有植物といいます。旭川市には蛇紋岩植物の シラトリシャジン(キキョウ科)が生育しております。シラトリシャジンは、北海道中部の蛇紋岩地にだけ見られる固有植物です。個体数も少なく環境省の絶滅 危惧植物に指定されております。(H22.9.24)
■シラトリシャジン(アップ)
◆堀江園長のコメント
野外調査で採集した植物は、研究資料として標本を作製しました。
毎日吸い取り紙で標本を乾燥をし、10日ほどで完成します。台紙に貼付し約500点を標本庫に収納いたしました。
今年度は三十数回の野外調査を行いましたが、旭川市の蛇紋岩地帯は1,000ha以上に及ぶため、まだ未調査の地域もあります。平成23年度も継続調査して完結したいと考えております。 今回で平成22年度のコメントは終了させていただきます。 (H22.10.22)
1.植物を新聞紙に挟み乾燥する | 2.貼付器で標本を台紙に貼る |
3.保存袋に入れた標本 | 4.標本庫に収納した標本 |